パウダーHIPとは?ITER真空容器内ミラーの冷却構造に採用された技術を解説
ITER真空容器内に配置される計測機器の一つであるダイバータ赤外サーモグラフィーに、パウダーHIP(Powder Hot Isostatic Pressing/粉末熱間等方圧プレス)を用いた冷却構造が適用されています。
代表取締役である伊尾木は、量子科学技術研究開発機構(以下、QST)と共同で、パウダーHIP技術を適用した三次元的に曲げられた配管を内包する金属ミラーを製造しました(プロセスを下図にて説明)。

詳細は下記論文をご参照ください。
https://doi.org/10.1016/j.fusengdes.2026.115639
(Fusion Engineering and Design, Volume 225, April 2026, 115639)
ITER真空容器内機器にパウダーHIPによる冷却構造を適用するメリット
- 複雑な冷却構造を形成できる
- 高い冷却能力を得られる
- 圧力境界となる溶接部の健全性が保たれる
- 設計者の意図(熱構造解析の結果)がそのまま適用可能
なぜミラーに冷却構造が必要か
ITER(国際熱核融合実験炉)真空容器内に配置されるミラーは、プラズマ運転中に測定を行う必要があります。ミラーはプラズマ運転中、プラズマ発光による輻射熱や、DT反応で生じる中性子が原子を振動させることで発生する核発熱などにさらされるため、冷却構造を持つ必要があります。
ミラーを連ねた光学系の光学性能を担保するためには、各ミラーの表面形状が理想的な面を保つ必要があり、熱構造解析などによって冷却流路を最適化する必要があります。
しかしながら、ITERのような光学系が約20mも連なる計測機器は前例がなく、各ミラーの表面形状に対する精度の要求は高く、冷却流路は複雑となり、製造が困難になります。
また、冷却流路は圧力境界となり、冷媒である水と真空の境界となるため、境界に適用される溶接部には、RCC-MR・ASMEなどの原子力コードに基づいた健全性を保証するための非破壊試験など、様々な試験検査が要求されます。確実に健全な溶接を実現するためには、完全溶け込みの突合せ溶接を適用することが望ましいとされています。
冷却構造の候補とそれぞれの課題
ミラーの冷却構造の候補として、①配管クランプ、②ドリルによる穴あけ、③配管ロウ付け、④ソリッドHIP、⑤パウダーHIPなどが考えられます。
- 配管クランプ:安価に実現可能だが、冷却性能が他の方法に劣る
- ドリルで穴あけ:冷却性能は良いが、冷却流路を複雑にすることが難しい。また、開けた穴をふさぐためにプラグ溶接を用いるが、溶接部の健全性を担保することが難しい
- ロウ付け:安価に実現可能だが、密着部を保証することが難しく、必要な冷却性能を安定して得られない。複雑な冷却構造も形成できない
- ソリッドHIP:必要な冷却能力・溶接部の健全性は得られるが、複雑な流路を形成することは難しい
これらの方法のメリットのみを実現できるのがパウダーHIPです。冷却構造を突合せ溶接のみで形成した配管で構成し、後からミラーの母材となる金属パウダーを配管を包み込むようにHIPによって成形します。HIP後にミラーの形状に削り出すことで、ミラー内部に複雑な冷却構造を形成しつつ、圧力境界となる溶接部も配管の突合せ溶接のみで構成されるため、溶接部の健全性が担保されます。
設計工数の面でのメリット
パウダーHIPは、熱構造解析によって最適化された複雑な冷却構造を、そのまま製造できる点でも優れています。パウダーHIP以外の方法では、製造性の観点から実現が困難な場合が多く、設計部門と製造部門の間で複数回のイタレーションが発生しがちです。パウダーHIPはこうした間接コストを最小限に抑えられるため、製造費自体は他の手法よりやや高めになるものの、総費用で比較すると大差はありません。
ITER機構での適用実績
このパウダーHIPによる冷却流路の形成については、ITER機構からも許可を得ており、ITERの真空容器内機器に対して初めてパウダーHIPが適用される例となります。
金属3Dプリンタを用いたさらなる発展
配管を曲げ加工して冷却構造を形成する場合、曲げ半径(曲げアール)の制限だけでなく、溶接トーチのアクセス性も製造上の制約となり得ます。配管同士が密に隣り合うルーティングでは、溶接トーチを適切に取り回せず、溶接部に溶け込み不良が生じる可能性が高まるため、溶接の実務者からは敬遠される傾向にあります。
近年技術的な発展が著しい金属3Dプリンタ(金属積層造形、AM:Additive Manufacturing)を活用することで、より複雑な冷却構造を内包するミラーなどの製作も可能になりつつあります。配管の曲げ加工では実現が難しい小さな曲げ半径(例えば配管径の1倍程度、いわゆる1D曲げ)や、溶接性を考慮する必要のない密なルーティングが可能になる点が特長です。
強度面についても、近年の技術発展により、金属3Dプリンタで製作した部材は基本的に鍛造材と同等の機械的特性が得られることが報告されています。また、3Dプリントで造形した材料に対してHIPを施すことで、機械的特性のさらなる改善や表面粗さの改善といった効果が得られることも報告されています。
一方で、現行のRCC-MRなど原子力コードでは、圧力境界に対する金属3Dプリンタ適用の可否について明確な言及がないのが実情です(筆者の把握している範囲)。今後、発電実証を行う原型炉設計や、より費用対効果を重視した核融合炉開発を進めるにあたっては、健全な圧力境界の確保、効率的な製造、高い冷却能力の両立がますます求められます。金属3Dプリンタ製部材の健全性評価手法の確立は、今後の重要な課題として残されています
おわりに
当社は、原子力コード、ソリッドHIP・パウダーHIP、溶接、伝熱工学に関する知識を有しており、今後も核融合炉真空容器内という熱的に厳しい環境に耐えうる機器の開発に貢献してまいります。


