Limit analysis(限界解析)について

原子力コードASME、RCC-MR等で認められている解析手法の一つとして、Limit analysis(限界解析)がある。

これは、従来一般的な、応力を膜応力・曲げ応力に線形化して(評価線を引いて)評価する手法に対し、より簡便に塑性崩壊の評価を行えるメリットを持つ手法である。線形化評価では、評価線をどこに引くか、また算出された応力がピーク応力なのか局所応力なのかを判断する基準が必ずしも明示的ではなく、解析者によって評価の仕方が若干変わり得るという課題がある。

ITERの真空容器の構造解析においては、Limit analysisの使用実績があり、特にポートの付け根付近など応力集中が生じやすい箇所の評価において採用されている手法である。

弾性解析では、発生応力が降伏応力を超えると、それ以降のひずみ量を適切に評価できなくなるため、崩壊荷重そのものを評価することができない。一方、弾塑性解析(材料の非線形性を考慮する解析)では、より実際の挙動に近い評価が可能になるものの、非線形性を扱うための前提条件の設定や計算コストの増大といった課題がある。Limit analysisは、この両者の中間に位置する解析手法であり、下界定理と完全弾塑性体という2つの考え方を組み合わせることで、静的な構造解析によって安全側に崩壊荷重を評価することができる。

下界定理

力の釣り合いが取れており、かつどこにも降伏応力を超えない応力分布を一つでも見つけることができれば、その荷重は真の崩壊荷重以下であることが保証される、という定理である。この定理により、解析者が変形の適合条件まで厳密に満たす形で応力分布を求めなくても、力の釣り合いと降伏条件さえ満たしていれば、安全側の評価になることが数学的に保証される。

完全弾塑性体

応力-ひずみ線図を二直線(バイリニア)で近似したモデルを指す。降伏応力に達するまでは、弾性解析と同様に応力とひずみが比例して単調増加するが、降伏応力に到達すると、応力は一定のままひずみのみが増加する、という単純化されたモデルである。

実際の判定方法

崩壊荷重の実務的な判定方法には、大きく2つのアプローチがある。一つは、荷重を増加させながら代表点の変位(または回転角)をプロットし、弾性域における勾配を半分にした直線と荷重-変位曲線との交点を崩壊荷重とみなす「二倍弾性勾配法」である。もう一つは、局所ひずみがある基準値(対象や適用する規格によって異なる)に達した時点の荷重を崩壊荷重とみなす方法である。いずれの方法においても、算出された崩壊荷重を実際の設計荷重と比較することで、設計上の裕度を算出することができる。

ANSYSによる検証:片持ち梁モデルでの崩壊荷重評価

理論の理解を深めるため、単純な片持ち梁モデルを用いてANSYSによる数値解析を行い、理論値との整合性を確認した。

モデル条件

  • 断面:10 mm × 10 mm(矩形断面)
  • 長さ:100 mm
  • 材料モデル:完全弾塑性体(降伏応力 200 MPa、硬化係数ゼロのバイリニアモデル)
  • 境界条件:根本を完全固定(Fixed Support)、先端に集中荷重を漸増的に付加
完全弾塑性体の応力-ひずみ線図(降伏応力200MPa)

[図1:材料モデル(応力-ひずみ線図)]

材料物性としては、降伏応力200 MPaに達するまでは弾性的に振る舞い、降伏後は応力が一定のまま、ひずみのみが増加する完全弾塑性体を設定した。理論通りの二直線(バイリニア)モデルとして入力されていることが確認できる。

片持ち梁モデルの境界条件(固定支持と先端荷重)

[図2:境界条件]

理論値との比較

矩形断面の片持ち梁における全塑性モーメント Mp は、

    \[M_p = \sigma_y \cdot \frac{bh^2}{4}\]

で与えられる。今回の条件(σy = 200 MPa、b = h = 10 mm)を代入すると、

    \[M_p = 200 \times \frac{10 \times 10^2}{4} = 50{,}000 \, \text{N・mm}\]

先端荷重 P と根本モーメント Mp の関係(Mp = P・L)から、理論上の崩壊荷重は、

    \[P_{collapse} = \frac{M_p}{L} = \frac{50{,}000}{100} = 500 \, \text{N}\]

と求まる。

解析結果:荷重-ひずみ曲線と二倍弾性勾配法

片持ち梁モデルの崩壊荷重評価(二倍弾性勾配法によるグラフ)

[図3:崩壊荷重評価グラフ(二倍弾性勾配法)]

先端荷重を漸増させながら得られた荷重-ひずみ曲線を上図に示す。弾性域の傾き(基準線)に対し、その傾きを半分にした直線を引き、荷重-ひずみ曲線との交点を読み取ると、崩壊荷重は約500Nとなり、理論値(500 N)とほぼ完全に一致する結果が得られた。

先端変位を用いた荷重-変位曲線では、局所的な塑性化の影響が梁全体の変形に対して相対的に小さいため、ひずみで見たときほど明瞭な非線形性が現れにくい。今回、崩壊荷重の判定にひずみを用いたのは、塑性ヒンジが形成される固定端の挙動をより直接的に捉えるためである。

応力・ひずみ分布による検証

片持ち梁の相当応力(von Mises応力)分布図

[図4:応力コンター(Elemental Mean表示)]

contour.png	片持ち梁の相当ひずみ分布図

[図5:ひずみコンター]

崩壊荷重を超えた荷重条件(700 N)における応力分布を確認すると、根本付近の最大応力は199.96 MPaとなり、設定した降伏応力200 MPaを超えないことが確認できる。あわせて同条件下でのひずみ分布を確認すると、応力が降伏応力に到達している根本付近において、有意な塑性ひずみ(最大約0.004 mm/mm)が生じていることが確認できる。応力・ひずみ両方の分布が根本付近で対応していることから、この挙動が数値誤差ではなく、実際に塑性化が進行した結果であることが裏付けられる。

なお、応力コンターの表示方法(節点平均かElemental平均か)によっては、隣接要素間の外挿・平均化処理により、見かけ上降伏応力をわずかに超える値が表示される場合がある。今回はElemental Mean表示を用いることで、材料モデルとして設定した降伏応力を超えない、理論と整合する結果を確認している。

まとめ

単純な片持ち梁モデルではあるが、理論計算(全塑性モーメントからの崩壊荷重)と、ANSYSによる数値解析(二倍弾性勾配法による判定)の結果がほぼ完全に一致することを確認した。あわせて、応力・ひずみ両方のコンター図から、崩壊荷重を超えた領域で実際に塑性化が進行していることも視覚的に確認できた。

RCC-MRxの場合の評価方法(2026/08/09追記)

前章では、ASME等で広く用いられる「二倍弾性勾配法(Twice Elastic Slope, TES)」を用いて片持ち梁モデルの崩壊荷重を評価した。一方、原子力コードRCC-MRxでは、この二倍弾性勾配法は採用されていない。ここでは、RCC-MRxにおけるLimit analysisの評価方法について、前章のモデルと対比しながら整理する。

RCC-MRxの規定(RB 3251.113)

RCC-MRx RB 3251.113では、Limit analysisによる判定基準として以下の式が規定されている。

    \[S_o = \left(\frac{C}{C_L}\right) \cdot R_L \leq S_m(\theta_{max})\]

  • C:評価対象としている荷重(荷重組合せを含む)
  • C_L:荷重Cと同一の荷重パターンを比例的に漸増させたときに得られる崩壊荷重
  • R_L:崩壊荷重C_Lを算出する際に用いた、完全弾塑性材料モデルにおける降伏応力(バイリニア曲線の折れ曲がり点の応力値)
  • S_m(θ_max):評価対象の構造内で発生する最高温度θ_maxにおける材料のS_m値(設計応力強さ)

S_oはR_Lの取り方に依存せず、C/C_Lという崩壊荷重に対する余裕度そのものを応力の次元で表した指標である点が特徴である。また、荷重条件の厳しさに応じてLevel A/B(通常運転)、Level C(RB 3251.12)、Level D(RB 3251.13)で判定基準S_mが段階的に緩和される仕組みになっている。

荷重組合せの場合の漸増方法

Limit analysisは単一荷重だけでなく、複数の荷重を組み合わせた条件(例:内圧+地震+自重)にもそのまま適用できる。ただしこの場合、各荷重成分をそれぞれ独立に漸増させるのではなく、組合せ荷重全体を、その比率を保ったまま一括で比例的に漸増させる必要がある。

例えば荷重組合せが

    \[C = P_{\text{内圧}} + F_{\text{地震}} + W_{\text{自重}}\]

であれば、共通の係数λを掛けて

    \[\lambda \cdot C = \lambda P_{\text{内圧}} + \lambda F_{\text{地震}} + \lambda W_{\text{自重}}\]

としながらλを漸増させ、構造が崩壊機構を形成する時点のλ_collapseから

    \[C_L = \lambda_{\text{collapse}} \cdot C\]

を求める。これはRB 3251.113に「loading C_L must be proportional to loading C」と明記されている条件であり、Limit analysisの下界定理・上界定理がいずれも「荷重パターンが固定された比例載荷」を前提とする理論であることに由来する。各荷重成分を任意の比率で個別に増減させてしまうと、崩壊が生じる荷重の組合せ方向が無数に存在し得ることになり、C_Lという単一の値を定義できなくなるため、比例載荷は理論上の必須条件となる。

崩壊荷重C_Lの求め方:二倍弾性勾配法は不使用

RCC-MRxにおけるC_Lの算出方法は、以下の2つに限定されている。

  1. 下界定理に基づく解析(下界法):極限解析の下界定理――力の釣り合いを満たし、かつどこにも降伏応力R_Lを超えない応力分布を一つでも構築できれば、その荷重は真の崩壊荷重以下であることが数学的に保証される、という定理――に基づき、実際にそのような応力分布を構築して崩壊荷重の下界値を求める解析的アプローチ。
  2. 完全弾塑性材料を用いた弾塑性解析(FEM):材料モデルを降伏応力R_Lのバイリニア(完全弾塑性)として設定し、荷重Cを比例的に漸増させながらFEM解析を行い、数値的に崩壊荷重を特定するアプローチ。

前章のANSYS検証で用いた「二倍弾性勾配法」は、あくまでひずみ硬化を考慮した実材料の弾塑性解析において、便宜的に「塑性荷重」を定義するための経験的な作図法であり、RCC-MRxが前提とする完全弾塑性材料モデルの枠組みには含まれていない。RCC-MRxでは、完全弾塑性体を用いることで塑性ヒンジの形成(=構造全体の崩壊機構の完成)そのものを数値的に捉えることができるため、TESのような便宜的な作図で「塑性荷重」を定義し直す必要がない、という位置づけの違いがある。

崩壊荷重の判定:荷重-変位曲線のサチュレーション

RCC-MRxの枠組みでC_Lを数値的に求める場合、着目すべきは構造全体の**荷重-変位曲線(または荷重-回転角曲線)**の応答である。荷重を漸増させていくと、崩壊荷重付近で曲線の勾配がゼロに近づいていく(サチュレーションする)挙動が現れ、これが塑性ヒンジ形成=崩壊メカニズム完成の数値的な現れとなる。

前章の片持ち梁モデルでは、局所ひずみを用いた二倍弾性勾配法によって理論値(500 N)と良好に一致する結果が得られている。これは片持ち梁のような単純構造では、固定端の局所ひずみが塑性ヒンジの形成度合いと直結するためであり、この場合は局所ひずみによる判定でも問題が生じにくい。

一方、複雑な構造(応力集中部や不連続部を含む形状)では、局所ひずみは応力集中の影響を強く受け、崩壊メカニズムとは無関係に発散的に増加しうる。そのためRCC-MRxの評価においては、局所ひずみではなく、想定される崩壊モード(塑性ヒンジの回転挙動)を代表する変位点を選び、その荷重-変位曲線のサチュレーションをもって崩壊荷重とする方が安全側かつ一般性の高い判定となる。

なお、これらの解析はいずれも微小変形理論(幾何学的非線形を考慮しない)を前提としている点にも留意が必要である。ANSYSでいえばLarge Deflectionオプションを有効にしない(小変形理論のまま解析する)ことに相当する。大変形理論を用いると、形状変化による見かけ上の剛性増加により崩壊荷重が過大評価される(非保守側になる)おそれがある。

前章モデルをRCC-MRx流に評価した場合

前章の片持ち梁モデル(断面10 mm×10 mm、長さ100 mm、降伏応力200 MPa)にRCC-MRxの枠組みを当てはめると、以下のように整理できる。

  • 材料モデル:完全弾塑性体(前章と同一のバイリニアモデル、R_L = 200 MPa)
  • 崩壊荷重C_Lの求め方:荷重を比例的に漸増させ、先端変位に対する荷重の応答(荷重-変位曲線)を追跡し、サチュレーションする荷重を読み取る
  • 理論値:全塑性モーメントM_p = σ_y・bh²/4 = 50,000 N・mmより、P_collapse = M_p/L = 500 N(前章と同一の理論値)
  • 判定:実際の設計荷重Cに対し、S_o = (C/C_L)・R_L を算出し、S_o ≤ S_m(θ_max) を満たすかどうかで裕度を評価する

理論上の崩壊荷重自体は前章のTESによる評価と一致するが、RCC-MRxでは判定に用いる曲線が「荷重-局所ひずみ曲線」ではなく「荷重-変位曲線」であること、また崩壊荷重を求めた後に単純な裕度(C_L/C)ではなくS_oという応力次元の指標に変換し、温度依存のS_m(θ_max)と比較する、という点が評価プロセス上の違いとなる。

構造解析・強度評価でお困りの際は

弾性解析では過度に保守的な評価になりがちな応力集中箇所についても、Limit analysis(限界解析)による塑性崩壊評価をはじめ、弾性解析・弾塑性解析まで、対象構造や評価目的に応じた解析手法をご提案しています。RCC-MR・ASMEなど原子力コードに基づく強度評価にも対応可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

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