核融合炉 真空容器の電磁力解析(ANSYS Maxwellによる事例紹介)
背景:プラズマ消失現象と真空容器に働く電磁力
核融合炉(ここでは磁場閉じ込め方式のトカマク型核融合炉における真空容器を指します)の内部には、大電流のプラズマが閉じ込められています。ITERの場合、その電流値は17MAにも達します。
ところが、プラズマ消失現象(プラズマがサーマルクエンチを起点として消失する現象)が発生すると、この17MAの電流はわずか数ミリ~数十ミリ秒で消滅してしまいます。
プラズマ電流が急激に減少する過程では、電磁誘導(レンツの法則)により、その変化を打ち消す方向に金属製の真空容器内に渦電流が誘起されます。この渦電流の分布は過渡的に真空容器全体に広がり、消失前のプラズマとほぼ同等の電流値にまで達します。すなわち、プラズマ電流は消滅するのではなく、その大部分が真空容器側の渦電流へと「引き継がれる」と捉えることができます。
一方、プラズマは、トロイダルフィールドコイルが発生する磁場(真空容器を上から見て反時計回りとなる磁力線)に捕捉され、真空容器の壁に触れることなく閉じ込められています。プラズマ消失時に真空容器へ誘起された渦電流は、このプラズマを閉じ込めるための磁場とカップリングし、ローレンツ力を生み出します。
このローレンツ力により、真空容器には数kN~数MNオーダーの電磁力が発生します。この電磁力によって真空容器は変形し、内部に応力が生じます。応力が許容値を超えると、真空容器の一部が塑性変形したり、最悪の場合には破損に至ることもあります。したがって、電磁力解析によってこの電磁力分布を算出し、応力評価を行うことは、核融合炉設計において必須のプロセスとなっています。実際にITERにおいても、電磁力解析によって電磁力を算出し、それを入力として応力解析を行うというプロセスが標準的に組み込まれています。
今回は、ANSYS Maxwellを用いて真空容器の電磁力分布を解析した事例を紹介します。
解析モデルの概要
- プラズマ電流分布は、別途実施したプラズマシミュレーションの結果を用い、プラズマが存在する空間に電流フィラメント状の電流源として再設定してMaxwellに焼き直しました。複数時刻のコンター図を並べて見ると、電流密度分布が時間とともに変化する様子、すなわちプラズマが移動しながら消失していく過程を確認できます。

プラズマ電流密度分布の時間変化(動画)
- 超電導コイル(トロイダルフィールドコイル、ポロイダルフィールドコイル、中心ソレノイドコイル)についても、それぞれに電流値を定義しています。

各超電導コイルの電流密度ベクトル
- 真空容器は薄肉の二重シェル構造とし、シェル同士は強度確保のためリブで接続しています。また、ITERと同様に3階層にポートを設けています。
- 解析コストを低減するため、360度の真空容器のうち40度分のみをモデル化し、両境界面には周期境界条件を設定しています。
解析結果:真空容器の渦電流・電磁力分布
真空容器に発生する渦電流分布(電流密度ベクトル)を確認すると、プラズマ中心(電流密度が比較的大きい箇所)に近い真空容器の部分には、真空容器を一周するような大きな渦電流が流れていることが分かります。それに伴って真空容器の渦電流分布、そして電磁力分布も変化します。プラズマ電流の変化から若干遅れて渦電流が立ち上がっていることも確認できます。前述の通りプラズマ中心は時間とともに移動するため、以下は複数時刻における渦電流分布・電磁力分布を並べたものです。時刻を追うごとに、渦電流や電磁力が大きい領域が真空容器上を移動していく様子が確認できます。

真空容器の渦電流分布(電流密度ベクトル)(動画)

真空容器の電磁力分布(物体力密度ベクトル)(動画)
これは、真空容器に生じる応力分布もまた時間とともに大きく変化し、応力が最大となる箇所自体も時間的に移動することを意味します。したがって、真空容器全体にわたってリブの配置を綿密に検討する必要があることが分かります。
次回予告
次回は、ここで求めた電磁力をインプットととして真空容器の応力解析例について紹介します。
電磁力解析・構造解析でお困りの際は
Fusion Technologiesでは、核融合炉に係る専門的な知識を生かして、電磁力解析モデルの作成、解析、および評価を行うことができます。プラズマ消失時の電磁力評価、超電導コイル周辺の電磁界解析、真空容器・ブランケット・ポートなどの構造物の応力評価まで、幅広くご相談いただけます。お気軽にお問い合わせください。


