熱サイクル環境におけるShakedownとRatcheting ― Bree diagramによる理解
熱サイクル環境では、温度変化に伴って二次応力である熱応力が繰り返し増減する。
一次応力が作用した状態で熱応力が繰り返されると、塑性ひずみがサイクルごとに一方向へ累積し、永久変形が徐々に進行する場合がある。この現象をラチェッティング(Ratcheting)、それによって発生する変形を進行性変形(Progressive deformation)と呼ぶ。
ラチェッティングは、過大な永久変形による機能喪失や、最終的な破損につながる可能性があるため、構造設計において検証すべき重要な変形モードの一つである。
一方、初期の塑性変形を経た後、荷重サイクルを繰り返しても塑性ひずみが一方向へ累積せず、安定した繰返し応答に移行する場合がある。このような挙動をShakedownという。
繰返し荷重に対する代表的な応答として、以下のような状態がある。
Elastic shakedown
初期のサイクルでは局所的な降伏及び塑性ひずみが発生するが、それに伴って残留応力が形成され、応力分布が再配分される。
その結果、その後のサイクルでは新たな塑性ひずみが発生せず、弾性的な繰返し応答に移行する。この状態をElastic shakedownという。
Alternating plasticity
各サイクルにおいて塑性ひずみが繰り返し発生するものの、1サイクル終了時の正味の塑性ひずみ増分はゼロとなり、一方向への永久変形は進行しない。
この場合、応力-ひずみ曲線は安定した閉じたヒステリシスループを形成する。
永久変形は進行しないものの、塑性ひずみ範囲が繰り返されるため、低サイクル疲労が支配的な損傷モードとなる可能性がある。
このように、繰返し荷重を受ける機器の設計では、単に局所的な降伏が発生するか否かだけではなく、その後の応答がElastic shakedown、Alternating plasticity、あるいはRatchetingのいずれとなるかを評価することが重要となる。
Bree diagramによる変形モードの予測
Ratchetingを評価する方法はいくつか存在するが、ここではBree diagramを用いてその基本的な挙動を整理する。
Bree diagramは、一定の一次膜応力を受ける薄肉円筒に、板厚方向の繰返し温度勾配が作用する古典的なBree問題を対象として、弾性解析から得られる仮想的な応力を用いて、その後の弾塑性応答を予測するための線図である。
古典Bree問題では、変形モードを区分する代表的な境界が、無次元化された一次応力 X と熱応力 Y を用いて以下のように表される。
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これらの境界によって、Pure elastic、Elastic shakedown、Alternating plasticity、Ratchetingなどの領域が区分される。

図1 Bree diagramと本解析における弾性解析結果のプロット。①~④は、それぞれPure elastic、Elastic shakedown、Alternating plasticity及びRatchetingの代表点を示す。
横軸 X は、圧力等によって発生する一次膜応力を降伏応力で無次元化した量であり、以下のように定義する。
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ここで、SPは一次荷重によって発生する一次膜応力、Syは材料の降伏応力である。
今回の円筒モデルでは、内圧によって発生する円周方向の一次膜応力をSPとした。
一方、縦軸 Y は、板厚方向の温度勾配によって生じる弾性熱曲げ応力を降伏応力で無次元化した量であり、以下のように定義する。
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ここで、STは塑性化を考慮しない弾性解析によって求めた、板厚方向にほぼ線形に分布する円周方向熱応力の表面における最大絶対値とした。
したがって、本解析ではBree diagramの X 及び Y の算出に、いずれも円周方向応力を用いた。
ここでいう「板厚方向」とは応力成分の方向ではなく、応力分布を評価する位置の方向を意味する。すなわち、半径方向に沿って円周方向応力の分布を評価し、その表面最大値をSTとしている。
Bree diagramでは、このように弾性解析によって一次膜応力及び熱曲げ応力を求め、それらをSyで無次元化して線図上にプロットすることにより、その荷重条件においてどのような弾塑性応答が生じるかを予測することができる。
なお、Bree diagram自体は変形モードを予測するためのものであり、実際にどのような応力-ひずみ履歴を示すかを直接示すものではない。
そこで本検討では、各変形モードを視覚的に理解するため、Bree diagramによる予測に加えて弾塑性解析を実施し、各条件における応力-ひずみ曲線を取得した。
簡易円筒モデルによる確認
解析には、薄肉円筒を模擬した簡易的な2次元モデルを用いた。
円筒断面の1/4をモデル化し、軸対称境界条件を設定した。
円筒の内径を500 mm、板厚を10 mmとした。一次荷重として1~5 MPaの一定内圧を与え、二次荷重として板厚方向の温度差を与えた。
外壁温度を20 ℃一定とし、内壁と外壁の温度差が50~400 ℃となるように内壁温度を周期的に変化させた。

図2 Bree diagramの変形モードを確認するために用いた簡易円筒解析モデル。内径500 mm、板厚10 mmの円筒断面の1/4を2次元でモデル化した。一次荷重として一定内圧を作用させ、二次荷重として内外壁間に周期的な温度差を与えた。
Bree diagramに用いる応力の算出
Bree diagramの X を算出するため、圧力荷重によって発生する円周方向の一次膜応力 S_P を弾性解析から求めた。
また、Y を算出するため、熱荷重によって発生する円周方向応力 \sigma_\theta の板厚方向分布を弾性解析から求めた。
熱荷重による \sigma_\theta は板厚方向にほぼ線形に分布しており、その表面における最大絶対値を熱曲げ応力 S_T とした。
したがって、
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及び、
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として、各荷重条件をBree diagram上にプロットした。

図3 弾性解析によって得られた板厚方向の円周方向熱応力分布。板厚方向にほぼ線形に分布する熱応力の表面最大値をSTとし、Bree diagramのYを算出した。
なお、ここでいう「板厚方向」とは応力成分の方向ではなく、応力分布を評価する位置の方向を意味する。
すなわち、板厚方向(半径方向)に沿って円周方向応力の分布を評価している。
今回のBree問題では、内圧による主要な一次膜応力及び温度勾配による熱曲げ応力はいずれも円周方向応力として評価できるため、後述するヒステリシス曲線についても同じ円周方向の応力-ひずみ成分を用いた。
まず弾性解析を実施し、得られた一次膜応力及び熱曲げ応力から X 及び Y を算出した。
その結果、以下の4つの代表的な座標を得た。
- X = 0.12、Y = 0.42:Pure elastic
- X = 0.12、Y = 1.70:Elastic shakedown
- X = 0.12、Y = 3.38:Alternating plasticity
- X = 0.63、Y = 3.38:Ratcheting
これらの座標をBree diagram上にプロットすると、それぞれ異なる変形領域に位置することが確認できる。
次に、同じ荷重条件について完全弾塑性体を仮定した弾塑性解析を実施し、各条件における応力-ひずみ履歴を確認した。
応力-ひずみ曲線については、Bree diagramの評価に用いた応力成分と対応させるため、評価点における円周方向応力と円周方向ひずみの時刻歴から作成した。
① Pure elastic
応力とひずみは直線的な関係を維持しており、荷重サイクルを繰り返しても塑性ひずみは発生しない。
Bree diagramから予測されるPure elasticな応答と一致する。

図4 Pure elastic領域(X=0.12, Y=0.42)における円周方向応力-ひずみ履歴。繰返し荷重に対して塑性ひずみは発生せず、弾性的な応答を示す。
② Elastic shakedown
初期サイクルでは降伏に伴う塑性ひずみが発生するが、その際に残留応力が形成される。
その後のサイクルでは新たな塑性ひずみは発生せず、弾性的な繰返し応答に移行している。
応力-ひずみ曲線からも、初期の塑性変形後に履歴が安定し、Elastic shakedownに移行している様子を確認できる。

図5 Elastic shakedown領域(X=0.12, Y=1.70)における円周方向応力-ひずみ履歴。初期サイクルで塑性変形及び残留応力が生じた後、その後のサイクルでは弾性的な繰返し応答に移行する。
③ Alternating plasticity
各サイクルにおいて正負両方向の塑性変形が発生し、応力-ひずみ曲線は閉じたヒステリシスループを形成している。
塑性ひずみはサイクル中に繰り返し発生するものの、1サイクル終了時の正味の塑性ひずみ増分はほぼゼロであり、一方向への永久変形は進行しない。
Bree diagramから予測されたAlternating plasticityの特徴を確認することができる。

図6 Alternating plasticity領域(X=0.12, Y=3.38)における円周方向応力-ひずみ履歴。各サイクルで塑性変形が発生するが、安定した閉じたヒステリシスループを形成し、一方向への塑性ひずみの累積は生じない。
④ Ratcheting
各熱サイクルにおいて塑性変形が発生するとともに、1サイクル終了時の正味の塑性ひずみ増分がゼロとならず、一方向へ累積している。
そのため、応力-ひずみ曲線は同じ位置で閉じたループを形成せず、サイクルを重ねるごとにひずみ方向へ移動している。
この挙動がRatchetingである。

図7 Ratcheting領域(X=0.63, Y=3.38)における円周方向応力-ひずみ履歴。熱サイクルごとに正味の塑性ひずみが発生し、ヒステリシスループがひずみ方向へ移動することで永久変形が累積する。
このように、Bree diagramによって弾性解析結果から予測された各変形モードを、弾塑性解析による応力-ひずみ履歴から視覚的に確認することができた。
RCC-MRxの3Sm ruleとの関係
RCC-MRxでは、進行性変形に対する評価方法の一つとして、いわゆる3Sm ruleによる代数的な評価が規定されている。
RCC-MRxにおける3Sm ruleは、概略的には以下のように表される。
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ここで、
- PL:局部一次膜応力
- Pb:一次曲げ応力
- ΔQ:二次応力の変動範囲
- Sm:設計応力強さ
である。
ここではBree問題との関係を理解するため、今回の単純な円筒モデルについて両者を対応させて考える。
今回のモデルでは一定内圧による一次膜応力が支配的であり、一次曲げ応力を無視すれば、概念的に以下のように対応させることができる。
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また、本解析では温度差をゼロから最大値まで周期的に変化させている。
温度差ゼロにおける熱応力をゼロとすると、二次応力の変動範囲ΔQは、最大温度差における弾性熱応力STに対応する。
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したがって、今回の単純な一軸支配のBreeモデルに限れば、3Sm ruleを概念的に以下のように表すことができる。
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なお、実際のRCC-MRx評価ではPL、Pb及びQはコードで定義された応力分類及びstress intensityに基づいて評価される。このため、一般的な多軸応力状態について上式のような単純な対応が成立することを意味するものではない。
次に、3Sm ruleとBree diagramとの関係を考える。
Smは常に降伏応力の3分の2として定義されるわけではないが、説明を単純化するため、降伏強さによってSmが支配される場合を考える。
この場合、
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とすれば、
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となる。
したがって、今回の単純化では、
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となる。
両辺をSyで除すると、
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となる。
Bree diagramでは、
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及び、
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であるため、
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となり、3Sm ruleによる境界は、
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と表すことができる。
3Sm ruleとBreeのRatcheting境界は一致するのか
一方、古典Bree問題におけるRatcheting境界は、一次応力 X の大きさによって変化する。
Xが0より大きく0.5以下の範囲では、
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となる。
また、Xが0.5以上1未満の範囲では、
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となる。
したがって、少なくとも今回のように単純化した一軸支配のBreeモデルにおいて、3Sm ruleから得られる境界、
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と、古典Bree問題におけるRatcheting境界、
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は一致しない。
つまり、3Sm ruleを古典Bree diagramにおけるRatcheting境界そのものとして解釈することはできない。
例えば、以下の条件を考える。
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単純化した3Sm ruleでは、
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となり、3Sm ruleの条件を満足する。
一方、古典Bree問題におけるRatcheting境界は、
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となる。
したがって、
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であり、この点はBree diagram上ではRatcheting領域に位置する。
実際に弾塑性解析を行った場合にも、この条件ではサイクルごとに永久ひずみが累積するRatcheting挙動が確認された。
この結果からも、少なくとも今回の単純化した対応では、3Sm ruleと古典BreeのRatcheting境界が同一ではないことが分かる。
これは3Sm ruleが間違っているという意味ではない。
3Sm ruleは、設計コードの中で定義された応力分類及び適用条件のもとで用いられる簡便な設計評価則であり、一方の古典Bree問題は、一定の一次膜力を維持しながら板厚方向の熱曲げ応力を繰り返した際の、断面内の塑性化、応力再配分及びひずみ累積を解析した問題である。
両者はRatchetingやShakedownという同じ現象を対象としているものの、その評価方法及び理論的な構築方法は同一ではない。
3Sm ruleがどのような設計思想に基づいて構築され、古典Bree問題におけるShakedown及びRatchetingの考え方とどのような関係にあるのかについては、別の機会に整理したい。
ITERからDEMOへ ― より厳しい熱環境における設計
ところで、ITERの真空容器では、RatchetingやShakedownを許容することを前提とするのではなく、基本的に弾性範囲内で設計解を得る方針が採られていた。
十分な設計裕度を確保し、弾性範囲内で成立する設計とすることには大きなメリットがある。
塑性変形を許容する設計では、RCC-MRなどの原子力設計コードに基づく詳細な弾塑性評価が必要となる場合がある。また、供用期間中検査(In-service Inspection:ISI)を含め、製造後及び運転開始後の健全性確認まで考慮した設計が必要となる。
そのため、設計段階から適用する設計コードの考え方を理解しておくことが重要である。
設計時には成立しているように見えても、後になって製造、検査、供用期間中検査などの要求を考慮すると、設計変更が必要となる可能性がある。特に核融合炉のように、供用開始後の機器へのアクセスが容易ではない設備では、設計段階において検査性や保守性まで含めて考えておく必要がある。
ITERの真空容器では、弾性範囲内で成立する設計解を追求することができた。一方、現在検討が進められているDEMO炉では、ITERよりも高い熱負荷や中性子負荷、長い運転時間など、より厳しい環境条件が想定される。
そのような環境では、すべての部位について弾性範囲内に収めることが必ずしも合理的とは限らず、部分的な塑性変形を許容しながら構造健全性を確保する設計が必要となる可能性がある。
そうなれば、
- どこまでの塑性変形を許容するのか
- Elastic shakedownするのか
- Alternating plasticityとなるのか
- Ratchetingによる進行性変形が生じないか
- 繰返し塑性ひずみによる疲労損傷をどのように評価するのか
といった弾塑性挙動を、設計者自身が理解することがより重要になる。
現在、核融合炉に適用する法規制や設計コードについて各国で検討が進められている。核分裂炉とは異なる核融合炉のリスク特性を踏まえ、既存の原子力規制とは異なる考え方が採用される可能性もある(筆者は緩和される方向と推察する)。
しかし、規制要求がどのような形になったとしても、熱サイクルを受ける構造物の実際の変形挙動と、ASMEやRCC-MRxなどの設計コードが採用している評価手法の双方を理解することは重要である。
今回、3Sm ruleを理解するためにBree diagramと弾塑性解析を確認してみたところ、3Sm ruleが古典BreeのRatcheting境界そのものではないことも見えてきた。
設計コードに記載された式を単に満足するか確認するだけではなく、その式がどのような物理現象を防止するためのものであり、どのような仮定や設計思想から導入されているのかを理解することが、今後の核融合炉設計ではますます重要になると考える。
構造解析・弾塑性評価でお困りの方へ
当社では、核融合炉をはじめとする高熱負荷機器・構造物を対象として、有限要素法(FEM)を用いた構造解析及び設計評価を行っています。
線形弾性解析だけでなく、材料非線形を考慮した弾塑性解析、熱応力解析、疲労評価、Shakedown・Ratchetingを含む繰返し荷重に対する構造健全性評価についても対応可能です。
また、単に解析を実施して結果を提出するだけではなく、ASME、RCC-MR/RCC-MRxなどの設計コードや適用基準を踏まえ、「どのような解析・評価が必要なのか」「解析結果を設計成立性の説明にどのようにつなげるのか」といった評価方針の検討から支援いたします。
核融合機器の構造設計、熱応力・弾塑性解析、設計コードへの適合性評価などでお困りの場合は、お気軽にご相談ください。

